【読書】イーロン・マスク上下
伝記ってあまり興味が無くて全く読まないのだけど、イーロン・マスクは逆にぶっ飛んでいそうで面白いかもしれないと期待して、話題にもなっていたので読んでみることにした。
上巻
子供の頃のエピソードからスタート。とにかく父親のモラハラが酷くて可哀想になってくる。ぶっ飛んだ性格はこの頃の精神的なダメージのせいではないかと思った。偉人がなんでもトラウマ起因であってほしくはないが、やっぱり影響はあると思う。
でも、あそこから引きこもって何もしない人間ではなく、あの行動力に転嫁できたのは何でなんだろう。もちろんコミュ障っぽいところや、SFや機械いじりが好きなところなんかは、幼少時の影響は少なからずあると思う。
読んでいくと、かなり屈折した人間であることは分かるけどね。
それから父親から逃れるために、南アフリカからカナダに移住できたのも大きかった。ここら辺、経済状況とか外国に移住しようとする発想とかが南アフリカでよくある思考なのかがちょっと理解できなかった。
ビジネスの飛躍のきっかけとなったのは、ペイパルの株を売って得た資金だろう。彼自身はペイパルを追い出されたが、それでも次の事業に費やす元手ができたのが、その後の礎になっていると思う。ペイパルにおけるマスクの立場が経営者なのかなんなのか今一つわかりにくかったが。
このあたりでは、マスクはITエンジニアから出発しているので、自分にも入ってきやすいエピソードがいくつかあった。
そしていよいよスペースXとテスラの並行稼働の話につながっていく。日曜劇場で扱われそうな高い志と執念の物語だ。
読んでいくと、何度も頓挫しそうなタイミングがあって、よく現在まで継続できたなぁと言わざるを得ない。
マスクの高い目標に対してスケジュールがきつすぎて、彼の圧によく社員が耐えているなという印象が強い。優秀な社員を集めているだろうに、それでも容赦なく駄目だしをするマスクという構図。でも、無茶な要求に応える社員にむしろ同情すると共に、なんで反旗を翻さないんだろうって不思議に思った。ボスが絶対なのと、緊急事態にマッチョな状態になっちゃうみたいだ。
あと資金も綱渡りで、これは結果が出ていなかったらどうするつもりだったのだろうと緊張感があった。
上巻でイーロン・マスクがどんな人間であるかをまず紹介しているが、正直上巻の後半部分はちょっと飽きてしまった。
下巻
下巻が始まってしばらくはテスラとスペースXのシュラバ(修羅場のこと?)が続くが、その中でも自発的に辞めていく人たちを取り上げたりもしている。ワークライフバランスにも触れていて、そりゃそうだよなって思う。
ようやくテスラとスペースXが好調になったところで、平穏の嫌いなマスクが新たな活動の場所とするのが、ツイッターの買収だ。
人類の未来を考えてのスペースXや環境問題を考えてのテスラといった、割と思想に従って動くマスクだが、ツイッターについても自由な発言の場というお題目ももちろんあるが、それよりもペイパルで成し遂げたかった電子決済の経済圏をツイッター上に実現したくて買収に踏み切ったような印象に見える。取締役でいるべきか買収に踏み切るか悩んでいたみたいだし、今までの思想と同じなのかは個人的にはちょっと分からなかった。
ツイッターとマスクは企業文化が真逆で、買収に動き出してからの旧経営陣とのやりとりや、買収後のツイッター社の再構築なんぞは、マスクも今まで通りいかなくて当然だろうという感じだ。ツイッター社の家庭的で社員に優しい社風にマスクは絶対に合わないだろうし。
個人的にはツイッターはSNSとしては尻すぼみになりそうだったので、マスクが適任かは分からないが何らかの刺激はあったほうがいいのだろうなとは思った。
下巻の後半はツイッターが絡みがメインで、会社の改革が思い通りに進まないのは面白い。
総評
マスクはトラブルをおこして、そこに突貫で対応して急速に何かを成し遂げるという、綱渡り的な達成を繰り返してきた印象。
大企業になってもスタートアップ企業のノリで作業が発生してしまう危うさを感じてしまう。
マスク自体は頭の回転が速いのだろうし危機感を持つのはもちろん大事だと思うが、危機感をわざと煽って自分も他人も追い詰めるので多分社員が疲弊してしまうだろう。
追い詰められないと奮い立たない性質らしいが、その上躁鬱で切れやすかったりと、扱いづらいボスであることも間違いない。
面白い人物だとは思うが、理想のリーダーとは思えないなぁ。読んでてそう思った。
それと、マスクがXという文字を、言葉としてか意味として好きだという事は伝わったな。

イーロン・マスク 上 (文春e-book) - ウォルター・アイザックソン, 井口 耕二


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